2012年11月25日日曜日

踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望


2ヶ月以上前のものですが、HDDの奥で眠っていたものをあげておきます。

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初日と次の日に1回ずつ、計2回観てきました。

前作では湾岸署史上最悪の2時間強を見せつけられ、このシリーズへの思いが封鎖されてしまった俺らを解放してくれる新たなる希望となったのでしょうか?

『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』 予告


結論から言えば、前作よりはマシだけど…といった感じ。


まず良くなっていた点から見ると、ストーリーがかなりすっきりしています。今回は並行して発生する事件が少なく、かつそれらが一つの一つの事件に集約されるようになっています。2や3にみられた省略しても何も問題の無い話、余計な上に本筋を混乱させる話は今回は登場しません。

今回のメインの事件の犯人が既に『踊る』シリーズに登場している人物という点では『容疑者~』や『踊る3』と同じです。ただし、今回は“6年前の誘拐事件”という犯人たちの動機になる部分がはっきりと描かれているので、『容疑者~』や『踊る3』のように「お台場って昨日は善人だったヤツが今日は悪人になるような殺伐とした街なの?バットマンのゴッサムシティなの?大沢在昌の新宿なの?」という疑問は感じさせません。

そして、今回はタイトルバックがカッコ良くなっています。やっぱりここは「Rhythm and Police」が流れないと締まらないですよ。出来としては個人的には『踊る2』のタイトルバックの方が好きですが、盛り上げどころをハズしていないという点で前作より改善されています。

『踊る大捜査線THE MOVIE2~レインボーブリッジを封鎖せよ!』OP

あと驚いたのは、今回はスローモーションが使われていないという点。前作では「青島の壁ドン」という現代日本映画史上に残る最悪の問題シーンがありましたが、この反省でもしたのか今回はこれ見よがしのスローモーションは使われていません。
ただ、どういう意図で動いているのか分からないカメラの移動(a.k.a. 本広キャメラワーク)は本作でも健在です。あれだけカメラを動かして躍動感をつけようとしているのに、冒頭で犯人を追いかけるシーンには全くスピード感が無いとはこれ如何に。

こんな風に書くと本作は良く出来ているのかと思うかもしれませんが、決してそういうわけではありません。
やっぱりやっちゃってます。

本作の大まかな構成としてはこんな感じ。

  • 前半:警察が押収したはずの拳銃で二人の男が射殺される。この男たちは“6年前の誘拐事件”の元被告人だと分かる。
  • 後半:“6年前の誘拐事件”を模倣する形で、真下湾岸署署長の息子が誘拐される事件が発生。青島たちが捜査に当たる。

混雑するほど話が用意されていないので、前半はかなりスムーズに進みます。

前半と後半との間では、後半の誘拐事件の犯人の一人である鳥飼が、池神警察庁長官と安住警察庁次長にとある不祥事の責任を青島と室井に取らせるか、自分たちが辞職するかの選択を迫ります。これが後半の事件を起こすかどうかの鍵になってます。鳥飼たちがギリギリまで上層部の腐敗が是正されるチャンスを与えていて、それがダメだと分かった時点で自身の正義を遂行しようとするという話の運びは、『踊る』らしからぬシリアスさがやや強く感じられけど良かったです。


で、ここからが本題。

本作で問題なのは、メインパートとなるはずの誘拐事件の捜査についての展開があまりにも杜撰すぎるということです。
いくつかポイントに分けて。

(1)イタコ捜査

室井からの電話を受けた青島が「俺も容疑者になって逃走します!」と言って室井をポカンとさせるシーンがあります。ここは和久さんの言葉で「犯人の気持ちになれば自ずと逃げる先が分かる」という説明が入るのでまぁ良しとしましょう。

誘拐事件の捜査を始めるシーンの前に青島は室井に対して「これは俺たちの事件だ!」と大見得を切っているし、この捜査の場面こそ湾岸署、少なくとも強行犯係のメンバーが足を使って捜査し「所轄の意地」を見せる絶好の機会だったでしょう。そうすれば、『踊る3』での「俺には部下なんていない!いるのは仲間だけだ!」という(青島の昇進という設定を完全に無駄にした)決めゼリフを回収するポイントにもなります。

しかし、実際には湾岸署の他のメンバーは検問で犯人と真下の息子の目撃情報を集めていて(この際、百歩譲って誘拐事件なのに誘拐された子供の写真をいきなり検問で見せるのはマズいんじゃないかというツッコミは止めておこう)、青島一人だけが自転車で駆けずり回ります。
しかも、捜査本部からの情報と自分の直感を頼りに。
またこの直感が当たる当たる。スゴイ!

きっと和久さんが青島に憑依していたんだろうな。

(2)倉庫を特定するまでの流れ

犯人が真下の息子と隠れている倉庫を特定する流れはこんな感じ。
  1.倉庫がたくさんあり、どれなのか特定できない
  2.前半の流れから、「子どもはバナナが好き」ということを青島が思い出す
  3.青島「室井さん、バナナだ!」 室井「(は?)…全捜査員に告ぐ、バナナだ!」
  4.和久が困惑しつつ現場へ向かう
  5.和久が到着、青島に「青島さんバナナ好きなんですか?」 青島「子どもが、だよ」
  6.バナナ倉庫からブザー音、青島と和久が向かう

これを読んでもきっと理解に苦しむでしょう。
だって、観ているこっちも説得力の無さに驚いているのだから。

展開的には1と6だけあれば十分なのだが、どうしてもバナナが必要だったのでしょう(後述)。そして、ギャグを入れたかったのでしょう。
でも、余計な展開で説得力を欠いてしまっているのはよろしくないと思います。

個人的にはこうだったら良かったと思う展開。(1)でも言ったように強行犯係は全員で犯人を追跡していて、青島と和久がバディを組んでいる前提で。
  1.倉庫がたくさんあり、どれなのか特定できない
  6.バナナ倉庫からブザー音
  2.前半の流れから、「子どもはバナナが好き」ということを青島が思い出す
  3'.青島「和久くん、バナナだ!」
  5.青島に「青島さんバナナ好きなんですか?」 青島「子どもが、だよ」
  6.青島と和久が倉庫に向かう

本編にあった場面を再構成してもこの程度の展開には出来るはず。ブザーが聞こえるのは偶然の要素になってしまうけれど、「倉庫に隠れている」というところまでの展開がある程度は論理的に進んでいれば許されるのではないでしょうか。説得力だってまだこの方があるのではと。

(*小休止)バナナについて
本作ではやたらとバナナが登場するわけですが、これの理由の一つはビジネス的な理由でしょう。

作品の最初に「FUJI TV MOVIE」というオープニングロゴが出てくるところで、『怪盗グルーの月泥棒』というアメリカの3Dアニメ作品に登場したミニオンという一つ目の黄色いキャラクターが登場します。誘拐された真下の息子の手提げ袋にも、このキャラクターのマスコットが付いています。
なぜこのキャラクターが出てくるかというと、『怪盗~』を製作したイルミネーション・エンターテインメント社とフジテレビが提携したから。
そしてこのミニオンというキャラクターは「バナナから作られた」という設定です。

バナナが鍵になるという展開は本作ではやや浮いているけど、これは作品の外側からの要望にこたえているわけです。
まぁ資金は必要なわけだし仕方の無いことかも知れないけど。

さて、バナナに関してはもっと別の部分が気になった人が大勢いるはず。

真下の息子を誘拐する実行犯・久瀬を演じるのはSMAPの香取くんです(ジャニーズ的リスペクトを込めての「くん」付け)。
「香取くん」と「バナナ」、この二つのキーワードであるものが浮かんだ人は俺だけではないはず。

そう、「ドールマン」です(劇中に出てくるバナナはDoleのバナナでしたね)。
< これは正義だ!

これもDoleの宣伝なのか、それともある種のサービスなのかw
どちらにしても「このまま深夜のバナナ倉庫に潜入したらドールマンが出てくるんじゃないか?」という不安2割・期待8割が胸に広がります。

もしもあのドールマンが登場したら、生身の警察官なんて太刀打ちできないはず!
どうする?!

そう考えていたら、一つ気付いたんですよ。

そう、青島の部下・和久伸次郎は、かつてチビノリダーであったと!
青島がピンチに陥ったその時に、十数年間封印していたその力を解き放つのだと!!

つまり本作は、
「平成仮面ノリダーのビギンズナイト」=「新たなる希望」
だと!!!

凄いよフジテレビ!



もちろんこんな展開にはなりませんでした。
残念。

(3)どう解決するか

正直な話、今まで指摘してきた部分はどうでも良いんです。そのままでも良いんです。
しかし、本作のメインパートである誘拐事件をどう解決するか、この部分の処理はどうしても納得できないのです。

倉庫に潜入した青島と和久は真下の息子を保護するものの、久瀬に見つかり銃を突きつけられます。
絶体絶命のピンチ、果たしてどう切り抜けるのか?

さすがにネタバレはキツいなぁという人は読むのをやめてください。
数行空けて、本編でどのように解決したのかを書きます。










バナナ倉庫にバスが突っ込みます。









な、何を言っているかわからねーと思うが
おれも何をされたのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…

きっと信じられないでしょう。
俺だって未だに信じられない。
でも、大事なことなので、ゆっくりと、もう一度。









バナナ倉庫に、バスが、突っ込みます。









メインパートとなる事件の解決にこの展開ってのはあまりにも雑すぎるでしょう。
『踊る3』での「逮捕の時は気をつけろ」を完全に無視した(しかも逮捕の瞬間は描かない)主犯の逮捕シーンどころの話ではない。

バスがもろにCGというのもどうなのか。デカい資金つぎ込んで撮っているのだろうから、バスの1台くらい何とかならないんですかね(仮面ライダーシリーズを見習え!)。
このバスを運転していたのは刑事を辞職して大分に帰るはずだったすみれさんで、バスが横転した後に割れたフロントガラスから彼女が登場します。しかし、光の加減のせいなのか、それともCGの処理がよろしくないのか、一瞬だけ霊的なものが出てきたように見えてしまいます。

何か思わせぶりなことがしたかったんですかね。でも、ただCG処理が杜撰なだけにしか見えなかったんですよ。
結局どういう意図だったのかなー何も考えてないのかなー


せっかく今までに無いくらいシリアスな展開で進んできた誘拐事件がこんな顛末を迎えてしまうと、そもそも本作のリアリティラインはどこに設定されていたのかが全くわからなくなってしまいます。

このシーンを『踊る』シリーズ的な「ハズし」だと言う人もいるでしょう。
しかしそれには賛成できません。

そもそも『踊る』シリーズにおける「ハズし」とは、従来の刑事ドラマの定石に対するものだったわけです。
例えば、パトカー1台出すにも書類の提出が必要とか、青島が担当した最初の事件では犯人を捜査で追い詰める前に向こうから自首してくるとか、所轄単位で少数精鋭の捜査本部を組んでドンパチやって犯人逮捕なんてできない、などなど。

『踊る』以降の刑事ドラマでは(警察の不祥事が多く明るみに出たことによって「警察=正義」というイメージが崩れたことも相まって)、「警察も役所の一つ」「警察官は公務員」という描き方がスタンダードになります。これは『踊る』の影響力を示すと同時に、『踊る』的な「ハズし」ができなくなってしまうということでもあります。

そんな状況でどのように物語を展開すれば良いか?
個人的には、雑な展開で物語そのものを台無しにするくらいなら、ベタな手法をとるほうがまだ良かったと思います。『踊る』であればベタな方がむしろ新鮮ではないでしょうか。

例えば、真下の息子が発した一言が“6年前の誘拐事件”の被害者である少女の言葉と同じで、過剰に正義を貫こうとする鳥飼、久瀬、小池にわずかに残っていた良心を揺さぶるとか。
『踊る』は人情を軽んじていた作品では決してないので、最後にそこを押しても良かっただろうに。

青島が鳥飼に向かって最後に言う「正義なんて胸に秘めておくくらいがちょうど良い」というTVドラマ第2話での和久さんの影響を思わせるセリフとのつながりも自然ではないか。



後半のメインの事件についてはこのくらい。
あとはエピローグが二つあって長く感じるのが良くない。

湾岸署内での青島と室井のやり取りのあと、一度エンドロールを流し、その途中でもう一つのエピローグである青島のスピーチを流したほうが流れとしてスムーズかなと思いました。


後半パートへの批判が長いので『踊る3』ばりに文句を言っているように見えるかもしれませんが、実際は前作より楽しんでます。だからこそ、後半の展開が非常に惜しかったなと感じているのです。

最後に、全体を通して実感したのは、15年続いたシリーズであり、その経年変化に耐えるのがさすがに難しくなっているという点です。
俳優の年齢も上がっているし(そんな中で深っちゃんがずっと綺麗なのは驚き)、和久さんや中西係長といった作品を支えてきた名脇役が実際に亡くなってしまっている。そのせいか、『踊る2』あたりまではあった勢いや華やかさが確実に薄くなってきている。

本作は、(前作から見て相対的に)シリーズ完結作として納得できる程度の出来ではあると思う。「THE FINAL」と銘打ったからには、ここできっちりと終わりにしてほしい。
< これで最後にしたいの。

『踊る大捜査線』、そして青島刑事よ、永遠に!


最後に、シネハスの『踊るFINAL』評を貼っておこうと思います。
http://www.tbsradio.jp/utamaru/2012/09/929_the_final.html

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