2013年4月22日月曜日

世界にひとつのプレイブック

3回観てきました。

『世界にひとつのプレイブック』予告編1

『世界にひとつのプレイブック』予告編2

ラッセル監督の前作『ザ・ファイター』がものすごく好き(2011年に観た洋画のベスト作品)なので、本作も観てきました。

初めは「前作のほうが好きかなぁ」と思っていたけれど、パット(ブラッドリー・クーパー)が妻の不倫現場をフラッシュバックするがごとくあるシーンを何度も思い出してしまい、今ではかなり好きな作品です。

これまでの監督の作品とも共通して見られる特徴の一つはドリーショットやズームイン/アウトなど「カメラを派手に動かす」ということです。
警官のキーオやティファニーの母が登場するシーンはカメラをグッと顔に寄せて圧迫感を出していたり、終盤のキスシーンのあとは『ザ・ファイター』の冒頭と同じく主人公の二人からカメラが一気に離れたりしてます。

それからもう一つは、音楽の使いどころが巧いということです。

前作ではディッキー(クリスチャン・ベイル)がビージーズの "I Started a Joke" を歌う名シーンがありましたが、本作でも音楽を活かした演出があります。

『ザ・ファイター』で"I Started a Joke"を歌うディッキー

主人公のパットには「ストレスがかかると妻の不倫現場に出くわした時にかかっていた曲が聴こえ暴力的になってしまう」という設定があるのだけれど、これにまつわるシーンがどこも良いのですよ。

そのある曲というのはスティービー・ワンダーの "My Cherie Amour" です。
良い曲だわぁ…。

Stevie Wonder "My Cherie Amour"

序盤でカウンセリングに訪れた病院でこの曲がかかっているのを聴いてしまったパットは取り乱してしまいます。そして、主治医のパテル医師(アヌパム・カー)に、この曲が結婚式でかけた曲であること、そして妻の不倫現場でかかっていたことを話します。

パテル医師。インド系のお医者さんのようです。
そういえば、『ライフ・オブ・パイ』の主人公はパイ・パテルでしたな。

もしかしたらただの勘違いかも知れないのだけれど、ここでのパットの話にも仕掛けがあると思っています。
パットは話の中で音楽をかけていた機械について触れているのだけれど、字幕では「DVDプレーヤー」となっています。(英語は得意でないのであまり自信は無いけど)セリフでも "DVD player" みたいなことを言ってるんですよ。でも、実際に画面に出てくるのは、どうみても映像再生はできなさそうなCDラジカセです。

このことから考えて、パットが言っている「不倫現場でかかっていた」というのは、もしかすると事実ではないのだと思います(ラジカセ自体は動いてるようだったけど)。一応は「心の病を抱えている状態」なわけだし。
それから、劇中には「パットが妻と幸せにしていた」時の描写が一切ありません。パットが夜中に探し始める結婚式のビデオも結局は見つからないしね。

パットは何とか妻とヨリを戻そうと必死なのだけれど、既に過去の幸せは失われているし、追えば追うほど彼を苦しめることにしかならない。その象徴がこの曲です。
歌詞の内容も「どんなにいいだろう 君が僕のものだったら」という、結ばれることのない女性に対する気持ちですからねぇ。切ない…。

ティファニー(ジェニファー・ローレンス)と出会ってからもこの曲が聴こえてしまうのですが、ここがもう最高に好きなシーンです。冒頭で言った何度も思い出してしまう場面はまさにここ。

友人の家でティファニーと出会って(出会ったその日にティファニーにセックスを持ちかけられ、断ったパットがビンタされる)から、ランニング中に何度も付きまとわれたパットは彼女を渋々夕食に誘います。

「友だちになって」とパットを追い回すティファニー

「これはデートじゃない!」とレーズン・ブランを食べるパットとティファニー

ですが、パットはティファニーの過去(警官だった夫が事故死した経緯、寂しさを紛らわせるため会社中の人と男女問わず寝たことなど)を散々聞き出した挙句「自分はティファニーと一緒にされたくない」と拒絶してしまいケンカになってしまいます。

パットとティファニーのケンカシーン

人ごみで言い合いするので、パットは周囲の人に止められストレスがかかってしまい、あの曲が聴こえ始めます。しかもいきなり聴こえるんじゃなくて、「La la」という部分が2回聴こえた後にサビが聴こえてくるんですよ(上の動画の最後の部分で「La la」が聴こえます)。

本格的に音楽が聴こえ始めてパットがパニックに陥ったとき、その事に唯一気がつくのがティファニーです。
そして彼女はこんな風にパットに声をかけるのです(字幕どおりではないです)。

「いつまで怖がってるの?たかが音楽でしょう?モンスターじゃないわ。
深呼吸して。音楽は聴こえない。曲は聴こえないわ。」

すると音楽が徐々に小さくなっていって、パットはようやく正気に戻ります。
冒頭に言った「あるシーン」というのはここのことで、観るたびに涙ぐんでしまいました。

これまでのパットは、「セラピーや薬物投与を通して症状を改善する→ニッキとヨリを戻せるかもしれない」という本来のプロセスを「ニッキとヨリを戻す→症状は無くなったも同然」と取り違えてしまっている(ティファニーが「まずセックスしてから友だちになろうとする」のと似てる)せいか、ろくな治療もせずに幻聴などに苦しめられます。
もちろん薬を飲めば表面的な症状(幻聴とか突発的な躁状態)は治まるけれど、あくまでも外から抑えているだけでパット自身がコントロールしているわけではない。

だから、このシーンはパットにとっては初めて症状を自分の力で抑えることが出来ると気付く場面だし、それに気付かせてくれたティファニーは彼にとってまさに「希望の光」となるのですよ。
思い出しただけでまたグッと来てしまいますよ…。

これを境にパットには幻聴は聴こえなくなります。イーグルスの試合で兄・ジェイクがケンカに巻き込まれたのを助ける時には曲はかかっていないです。


この出来事をきっかけにパットはティファニーへの態度を改めます。

パットが自分への理解を示していることを知るティファニー

今までは「君(ティファニー)みたいに変態じゃない」とか同じ扱いをされることを拒んできたパットですが、彼女の亡くなった夫の話や姉へのコンプレックスを知り、ニッキへの手紙を渡してもらうということを交換条件にしつつもティファニーとダンス大会に出ることに協力するのです。

ここからの展開も本当に良くてさぁ。

二人がダンスの練習をしていると病院を退院したダニー(クリス・タッカー)が訪れ、「ソウルが足りない!」とダンスを教え始めるのだけれど、セクシーな動きが多いせいか、ダニーがティファニーに教えているところにパットが嫉妬したかのように割り込んできたりします。
で、ダニーが帰ったときのシーンがこれ↓

サインでてるよ!

後の展開で「ニッキからの返事かと思っていた手紙が実はティファニーが書いたものだった」とわかるシーンがあるのだけれど、そのきっかけになるのがティファニーが口癖のように言う「サインを読む」という表現が手紙の文中にも使われていたことです。
ティファニーがそれまで見せたこと無いような笑顔でパットのほうを見つめているという「サイン」がもうこのシーンで出てるのに、パットのほうはまったく気付いていないというね!この鈍感!

パットが気付いてたらきっとこんな感じで見えてたと思うんですよ。

パットの位置からみたサイン(※イメージ)

いやぁ、こんな感じで見つめられたらもう…。

ここでまったく関係ない話をするけど、この本田翼のポスターが浮かぶよりも先に、数ヶ月前に自分自身にこういうことがあったことを思い出したんですよ。
まさに俺がパット側の位置で、女性がこっちを向いてるっていう。
そのときはパットとは違って横を向いたんだけど、あれはサインでも何でも無かったんだろうなぁ。
そんな訳は無いんだろうなぁ……。
俺の希望の光はどこにあるんだよ。。。

C1000レモンウォーター CM

ショートカットなのにさらに後ろで髪を括ってるってのが可愛すぎじゃないですか!
短髪推進派の俺も猛プッシュしたい髪型ですよ!

さて、本田翼の話はさておき。

二人がダンス大会を終えた後、ちょっとした勘違いから「パットは自分の方を向いてくれない」と判断したティファニーが会場を出て行ってしまい、それをパットが追いかけます。

ダンス大会後、真っ先にニッキの元へ向かうパットを見てしまうティファニー

「このサインを逃したら一生後悔するぞ!」と息子を諭すパット父
ここまではギャンブル好きのダメ親父だったせいか、反動でカッコ良くみえます。

そしてパットは一週間前に書いていたという手紙を読み、ティファニーに想いを告げるのです。

パットの想いを聞くティファニー

もうさぁ、こんな表情されたらこの場で死んでもいいじゃないですか。
これ死ぬなぁ。いや、死ぬね!(ダーイシ風に)

冒頭にも言ったように、パットとティファニーについても顔のアップショットは多いのですよ。基本的に二人の会話シーンは肩越しのクロスショットがほとんどだし。
この方法がとても活きるのは、二人とも表情のちょっとした変化で幼くも色っぽくも見せることができるからだと思うんです。パットは初めは子どもっぽいけど次第に色気が出てくるし、反対にティファニーはムスッと強ばった表情から柔和な顔になっていくし。

『ウィンターズ・ボーン』も観たし、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』も観た(『ハンガー・ゲーム』は観てない)んだけど、ジェニファー・ローレンスってそんなに印象に残ってなかったんですよ。
もしかしたらエマ・ストーン派だったせいで他にあまり目をくれてなかったからかも知れないけど。

それが一気にヤラれちゃいましたよ。

と言いつつも、この作品で一番可愛かったのはパテル先生の病院にいた受付のお姉さんなんだけどね!

病院の受付のお姉さん。「レジーナ」という役名がある
ようだけど、劇中で呼ばれていたかは記憶に無い。


このあとに二人のキスシーンがあり(予告編で見せてしまっているのはどうかと思う)エピローグに入るのですが、その最初のショットが「バラバラに置かれたリモコン」です。
パット父(ロバート・デ・ニーロ)はイーグルスの勝利のために「イーグルスカラーのハンカチを持つ」とか「テレビに対してまっすぐ座る」など色々な願掛けをするのですが、その一つが「リモコンの向きを揃えてまっすぐ並べる」というものです。

パットが試合会場でケンカに巻き込まれイーグルスも負けてしまった日の夜に、パットの家に押し掛けたティファニーが「パットと一緒にいた日は地元のチームが必ず勝っている」という法則を披露します。その話に乗ったパット父はイーグルスの試合結果とパットたちのダンス大会の得点を高倍率で二重賭けするという大博打に出て、賭けに勝ちます。

自説を披露するティファニー
どう聞いてもこじつけなんだけど、ジェイクが「確かにその通りだ…ゴクリ」と
真顔で反応するのが面白かったです。

つまり、それまでは独りよがりのジンクスに頼っていたパット父にとっても、二人が一緒にいるということが「希望の光」になっているのですよ。これまでのジンクスに頼る必要は無くなったわけです。
このことをたった1ショットで見せてしまうなんて、何てスマートな演出なんでしょう!!

このあとに続くパット一家に加えてダニーやロニーが団欒を過ごすシーンはもううっとりでした……。


という感じで、まとめというよりは好きなシーンについてダラダラ書く感じになってしまいました。

最後にもう一度だけ、ばっさー推しで終わりたいと思います。

Base Ball Bear "Perfect Blue"
途中で「服を脱いだらさらにその下に服を着てる」というシーンがあるけれど、
もしかしてこのMV全部がセルフパロディだったりするんですかね?

Base Ball Bear "愛してる"

※追記
ついさっき原作の邦訳を読み終えました。
映画はかなり脚色を加えているようです(上で書いてるようなことはほぼ映画オリジナル!)。
脚本も監督がやっているわけだし、ラッセル監督すごいなぁ。

0 件のコメント:

コメントを投稿