2013年6月22日土曜日

ハッシュパピー バスタブ島の少女

2回観てきました。
今さら感ビンビンですが、とりあえず書いておこうと思います。

『ハッシュパピー バスタブ島の少女』予告編


あらすじをまとめるのがメンドクサイので映画.comの紹介ページから引用。
米ルイジアナ州の湿地帯に、世間から隔絶された「バスタブ」と呼ばれる小さなコミュニティーがあった。少女ハッシュパピーは毎日がお祭り騒ぎのようなバスタブで気ままに生きていたが、ある日、大嵐が襲来したことをきっかけにバスタブは崩壊。さらに、父親のウィンクが重い病気にかかっていることを知ったハッシュパピーは、音信不通になって久しい母親を探しに外の世界へ足を踏み出していく。
ものすごく大雑把に言ってしまうと、「父の死を受け入れるまでの娘の成長の話」といったところ。
ハッシュパピーちゃんの成長を、彼女の時間と空間の捉え方の変化で表現していたところを面白く感じました。
その変化というのは、「円環的/空想的/子供的な時間」から「直線的/現実的/大人的な時間」への変化だと思うのです。

劇中の出来事を娘と父に分けて列挙してみると
1. 嵐が起きる前の平和な時間
  ○娘:
    ・父と一緒に暮らしている
    ・父から「餌」をもらって生きている
  ○父:
    ・娘に「餌」をあげている
タイトルの出方がカッコ良かったですな。
主人公のハッシュパピー。初めのうちはのんきに暮らしてます。
2. 嵐の襲来
  ○娘:
    ・一時姿が見えなかった父が帰ってきたときに喧嘩をする
    ・父の胸を殴ったところ、父が倒れてしまう
    ・父が倒れる→氷河の崩壊→怪物オーロックスの復活→嵐の襲来
    ・娘は「自分のせいで世界が壊れた」と考える
  ○父:
    ・嵐が襲来する中、娘を守る
氷河から目覚めた怪物・オーロックス。南を目指してグイグイ進撃します。
嵐の襲来によって低地帯のバスタブはほとんど水没してしまいます。
3. 嵐の襲来後
  ○娘:
    ・「世界を何とか元に戻す」ため奮闘する(先生から父の薬をもらう、など)
    ・堤防を爆破したものの状況は変化しない
    ・強制的に施設に収容される
    ・きれいな服を着させられるが、施設の人の言うことは聞かない
  ○父:
    ・娘に独りで生きていくための力を授ける(魚の捕り方、カニの食べ方など)
    ・施設に収容されたあと、病状が悪化する
    ・娘から「一緒に暮らしたい」と請われるが、それは出来ないと伝える
残った住人でなんとか暮らしていこうとします。
ウィンクお父ちゃんから教わるカニの食べ方。Beast it! Beast it!
4. 施設からバスタブへ戻る
  ○娘:
    ・海を渡り、バーで母(に似た女性)と出会う
    ・母(に似た女性)と暮らすことを諦め、バスタブに戻る
    ・オーロックスとの対峙
    ・父を看取る
  ○父:
    ・娘に看取られる
海を渡り、バスタブとは異なる世界(バー)に辿り着くハッシュパピー。
オーロックスに対峙した後、父の元へ向かうハッシュパピー。顔つきが男前!

初めのうちはハッシュパピーちゃんは「自分が世界の中心」という視点から物事を捉えています。
例えば「自分の一撃で世界が崩壊した」と考えてしまうとか、今までと同じように「お父さんといつまでも一緒に暮らす」ことが出来ると考えていることとか。

一方、お父ちゃんの方は直線的な時間で物事を捉えるので自分がいずれ衰えて死ぬことを理解しています。だからこそ、自分が死んでからも娘が生きていけるように「餌」を与えるのではなく自らの力で手に入れられるように手ほどきをします。

父の手ほどきやバスタブの外の世界を知って成長し、バスタブに戻って父を看取ったハッシュパピーちゃんは「未来の誰かが自分と父が暮らしていたことを知るはず」と考えます。
また、「自分はこの世界を構成する一部でしかない」とも捉えるように、客観的・理性的に物事を捉えることができるように成長しているわけです。

こんな成長の過程を、ハリケーン・カトリーナ襲来後のニューオーリンズを思わせる場所を舞台としながら、ファンタジーの表現も交えつつ展開していたのが凄いなと思った次第。


ファンタジーというと、この作品ではオーロックスという怪物が一番目立つ例かと。
ハッシュパピーちゃんが世界を元に戻そうとどんなに頑張ってもバスタブを目指して突き進んでくる姿は、すくなくとも「父の死」を象徴しているのでしょう。

オーロックス。調べてみたら牛の先祖に当たる動物だそうです。

序盤でハッシュパピーちゃんを含めた子どもたちが授業を受けている時に、先生が太腿に刻まれた怪物のタトゥーを見せながら「(怪物に)弱い子どもたちが狙われた」とか「人間は黙って見ていたわけではなかった」とか『パシフィック・リム』のセリフみたいなことを教えているシーンがありました。

先生の太腿に刻まれたオーロックス

この「人間」を「大人」とか「親」と考えるなら、黙って見ていたわけではなかった人間たちがしてきたことは、子どもに餌を食べさせるとか、一人で生きていくための力を授けるとか、まさにウィンクお父ちゃんのやってきたことに当てはまるのではないかなぁと思ったり。


劇中で強烈なインパクトを残す父娘ですが、実は二人とも素人だったそう。本当かよ!

ハッシュパピー役のクヮヴェンジャネ・ウォレスちゃん。
4000人の中から選ばれたというシンデレラガール。
将来の夢は女優、ではなく歯医者なのだそう。
ウィンク役のドワイト・ヘンリー。
普段は飲食店のオーナーだそうです。

監督もこの作品が長編デビュー作という新人なのです。
監督にも役者にも、変に慣れが無いからこそ生まれたパワーを持つ作品なのかもしれません。

みんな大好きWikipediaの情報によると、友人たちの「コート13」という映画会社を設立しているそうです(たしかこの作品の冒頭では監督の名前ではなく "Directed by Court 13" と出ていたような)。
短編ではこんな作品も撮っています。

Glory at Sea

監督についてもう一つだけ触れておくと、劇中の音楽の作曲も担当していたらしいです。
音楽もとても良かったので、これは次回作が楽しみですねぇ。

"Once There Was a Hushpuppy"

最後に、"Beast it!" のことを考えていたらどうしても浮かんでしまったMVを貼っておこうと思います。

"Weird Al" Yankovic - Eat It

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