『はじまりのみち』予告編
『映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』や『カラフル』など、これでもかと涙を搾り取ることで有名なアニメ監督・原恵一の初実写作品ということで観てきました。
『カラフル』で家族が食卓で泣く時に、兄が父が泣いているのに 気付かずティッシュを渡さないというのが名演出だと思うのです! このシーンではないんだけど。 |
シネマトゥディの作品紹介ページからあらすじを引用。映画監督・木下惠介の実話を描いているのです。
戦時中、監督作『陸軍』が戦意高揚映画でないと軍部からマークされてしまった木下恵介(加瀬亮)は、次回作の製作が中止となってしまう。そんな状況にうんざりした彼は松竹に辞表を出し、脳溢血で倒れた母たま(田中裕子)が治療を行っている浜松へと向かう。戦況はますます悪化し山間地へと疎開すると決めた恵介は、体の不自由な母をリヤカーに乗せ17時間に及ぶ山越えをする。
アニメ出身ということと関係あるかどうかは分かりませんが、良いと思った点をまず二つほど。
まず一つ目はキャスティング。
どうやら低予算らしく、大掛かりなセットも組んでいないし長回しのシーンも多いです。だから演技で画面を持たせる力のある人が選ばれているという印象。
何より驚いたのは、木下家のメンバーが、息子たちは母親に、娘たちは父親に似ていたことです。
アニメでは血縁関係によらず作画のタッチで似通ってしまうし、実写ではむしろ意識しないことが多い部分ではないかと。
今回は意識的に似ている人を選んだのかなと思ったりしました。
二つ目はちょっとした動作や行動で登場人物の心情を見せたり膨らませている点。
例えば、17時間歩き続けてようやく宿を見つけたときに正吉が水で濡らした手拭で真っ先にたまの顔に付いた泥を拭き取るシーン。
あと、監督自身も言っているけど、たまを背負って宿の二階に上がろうとする時に靴を脱がせてくれるように声を荒げて兄の敏三(ユースケ・サンタマリア)に頼むシーンも良かったですねぇ。
動作だと狂言回しの便利屋(濱田岳)は輝いてました。
女性の前だと良いとこ見せようとして頑張る(人妻だと分かると即やめる)ときのお調子者ぶりは最高でした。
敏三に「食べたいものは何か」と聞かれたときに披露するパントマイムを見ていたら、お腹が空いてきてしまうという劇場体験w
便利屋の好きなカレーライスの話をした後に、正吉の好きな白魚のかき揚を食べる動作を見せるシーンがあります。これによって、正吉はつっけんどんな態度をとっているけれど、実は敏三や便利屋と同じく「食べたいもの」が思い浮かぶくらいの人間臭さは持っていると分かります。
ただ、気になった点ももちろんありました。
特に中盤に挿入される『陸軍』のラストシーンは約6分半あって、「終」という文字まで映します。
この後に便利屋の顔のアップが映って作品に戻るのだけれど、引用する時間が長いせいか、「終」という字を見てしまったせいだからか、別の話が始まってしまったように感じてしまいました。
『陸軍』終盤のシーン
1回目に観たときはこのシーンを冒頭にもって来るべきだと思いました。そうすれば早い段階で戦中と現代の感覚の違いを説明することが出来るし、終盤の別の作品からの引用箇所との対比にもなるかなと。
まぁ、冒頭に『陸軍』から別のシーンの引用(『陸軍』のあらすじを説明するような内容)があることと、中盤で便利屋の回想として見せるほうが正吉に「自分の作品を観たいと思っている人もいる」ことを実感させる効果があると、2回目に観たときには考え直しましたが。
便利屋から『陸軍』の感想を聞く正吉。 |
ラストでは木下作品のフィルモグラフィーの形で引用箇所があります。また、これは作中の伏線を回収する形にもなってます。
例えばこんな感じ
- 便利屋のカレーライス→『破れ太鼓』
- 土手を歩く先生と生徒たち→『二十四の瞳』
- 正吉が母に語る作品の構想→『わが恋せし乙女』
土手を歩く先生と生徒たち。 本編ナレーションを担当している宮崎あおいが出てきます。 |
手をレンズに見立て、先生と生徒の姿を撮る正吉。 映画への情熱はそう簡単に捨てたりできないのですよ! |
伏線ではないですが、『陸軍』のラストシーンは『新・喜びも悲しみも幾歳月』からの引用シーンとの対比にもなっています。前者では戦場に向かう息子を見送るシーンですが、後者では海上自衛官になった息子を見送り「戦争行く船じゃなくて良かった」というセリフがあります。
終盤の引用はたぶん10分以上あったんじゃないかなぁ。
作品の上映時間は96分で、そのうち少なくとも15分は木下作品からの引用ということになります。
「木下惠介生誕100年プロジェクト」ということは十分に理解しているつもりだけれど、やはり引用シーンの長さは気になってしまいました。
逆に考えれば、このプロジェクトの作品として十分に役割を果たしているということですがね。
さて、これまでにも何度か言っている通りこの作品は若き日の木下監督が主人公ですが、無教養だもんで木下監督の作品は『カルメン故郷に帰る』と『楢山節考』しか観たことが無いのですよ。
どちらにも共通して感じたのは「表向きは奇抜に見えるけれど話の根幹はいたってシンプル」ということでした。
「リアカーで山を越えるという無謀なやり方をするけれど、それは病気の母を思うが故の判断」という、この作品で描かれていた正吉の人物像とも重なっているなと感じました。
木下監督というと映画だけでなくTVドラマにも活躍の場を広げた人ですが、戦後の日本映画界を舞台にした漫画『デラシネマ』の高羽監督の元ネタの一人なのだろうと思いました。
『デラシネマ』はもちろんフィクションですが、戦後の日本映画の製作体制だとか、当時の娯楽の中での映画の位置がどんなものだったかわかるとても面白いマンガでした。
ただ、最後は明らかに打ち切りのような形でバタバタと終わってしまったので非常に残念ですよ。
どこかで再開したりしないんですかね?
話を戻して。
ぱっと見は地味だし「昔の映画監督なんて興味ねぇよ!」という人もいるかとは思いますが、ぜひ観てみてください。
親子の情を描くことがなぜいけないんですか!
最後に、「木下惠介生誕100年プロジェクト」では原監督が『楢山節考』の予告編の編集も担当しているそうです。
『デラシネマ』から高羽監督(1コマ目の人) 演出や撮影方法を刷新し、映画界に新風を吹き込みます。 |
『デラシネマ』はもちろんフィクションですが、戦後の日本映画の製作体制だとか、当時の娯楽の中での映画の位置がどんなものだったかわかるとても面白いマンガでした。
ただ、最後は明らかに打ち切りのような形でバタバタと終わってしまったので非常に残念ですよ。
どこかで再開したりしないんですかね?
※ちょっと気になったので「デラシネマ 打ち切り」で検索したら、作品の良し悪しとは一切関係ない理由で打ち切りになったという内容の記事がいくつかありました。マジかよ…。
話を戻して。
ぱっと見は地味だし「昔の映画監督なんて興味ねぇよ!」という人もいるかとは思いますが、ぜひ観てみてください。
親子の情を描くことがなぜいけないんですか!
最後に、「木下惠介生誕100年プロジェクト」では原監督が『楢山節考』の予告編の編集も担当しているそうです。
『楢山節考』 デジタルリマスター 予告篇 directed by 原恵一
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