※タイトルの変更に伴い一部内容を修正しました。(2016/07/16)
2015年に見たミュージックビデオ(以下、MV)をまとめてみました。
こちらは動画やリンク、余計な文章満載のフル版です。
サクッと結果だけ確認したい人は軽量版をどうぞ。
2015年に見たミュージックビデオ(軽量版) | スティル人間未満
2015年に見たMV
他の記事のようにリスト化するのはさすがに面倒だったので省略。
以下のリンク先にまとめています。
スティル補足未満: 2015年のミュージックビデオ
2015年の部門別ベストMV
2015年に見たMVから、部門別にベスト作品を挙げてみようと思います。
ルールはこんな感じ。
- 対象は先のリンク先に挙げられる作品
- 部門を問わず、1ミュージシャンにつき1作品のみ
部門は以下のように設けてみました。大まかな基準も書いておきます。
- ライブ: ミュージシャン本人による演奏・歌唱シーンがメインの作品
- ドラマ: ストーリーが読み取れる作品
- ダンス: ダンスシーンがメインの作品
- イメージ: ストーリーよりもイメージの強い作品(ライブ、ドラマ、ダンスに当てはまらないもの)
- アニメ・グラフィクス: CGなどの映像処理やアニメーションを使用した作品
- エフェクト: 編集や物理的な仕掛け・映像処理を使用した作品
- イルネス: とにかくインパクトのあった作品
以下、各部門ごとに作品を選んでみました。
○「ライブ」部門
○「ドラマ」部門
○「ダンス」部門
○「イメージ」部門
○「アニメ・グラフィクス」部門
- Grades 「King」
- Young Juvenile Youth 「Animation」
- おやすみホログラム & Have a Nice Day! 「エメラルド」
- Iron Maiden 「Speed Of Light」
○「エフェクト」部門
- DJみそしるとMCごはん 「THIS IS ISETAN UNDERGROUND」
- でんぱ組.inc 「あした地球がこなごなになっても」
- Yun*chi 「Jelly*」
- The Chemical Brothers 「Go」
- Perfume 「Relax In The City」
○「イルネス」部門
「ライブ」部門
○Awesome City Club 「アウトサイダー」
「ライブ」タイプのMVでは一番印象に残った作品。
2015年だけでも「4月のマーチ」、「涙の上海ナイト」、「GOLD」、「Lullaby for TOKYO CITY」と多作かつアイディア豊かなMVを発表したAwesome City Club(以降、ACC)だったので、どれを選ぼうか悩んだ(というか、自分で設定したルールが無ければ全部のMVを選びたかった)のですが、スタンダードな形式でバンドと曲の良さそのものを読み取りやすいこの作品を選びました。
2015年のMVで同じくらいのチカチカした表現を使ったのはサイプレス上野とロベルト吉野 「ホッピン!」でしたね。
スペースシャワーTV | レコメンドアーティスト - アウトサイダー / Awesome City Club
メイキング! | Awesome City Club | note
「アウトサイダー」MV撮影 | Awesome City Club | note
○cero 「Summer Soul」
2015年のベスト曲にも選んだ曲ですが、そこでも書いた通り、曲の印象はこのMVのからかなり影響を受けている気がします。「ゴリゴリの夏向けチューンという感じではなく、夕方から宵の口というか、暑さも湿気も適度におさまってきた頃のような雰囲気」というのはまさにこのMVの印象です。
間奏などで挿入されるビデオ風に粗くした映像処理も、「真昼のようにキラキラした夏」ではないチルアウト感を生み出しているように思いました。
徒歩のシーンでは、JR中央線(より正確に言えばJR青梅線)が走っていること、「ざんぼりがわ(残堀川)」の看板が画面右側に映ること、「ヤマタネ」の倉庫が後ろに映ることの3点から、おそらくは国営昭和記念公園の最寄り駅である西立川駅付近のここから以下のように歩いているものと思われます。
cero "Summer Soul" 徒歩シーンの道順 |
歌詞にはほとんど具体的な地名は出てきませんが、序盤に唯一「大学通り」と出てくるので国立のことかなと思ったり。そう考えると、昼に立川辺りから出発して夜に都心へと繰り出していく、という情景をこのMVでそのまま再現しているのかなと思いました。
もしかしたらインタビューなどで何かしら答えていたりするのかもしれないけれど、そこまではチェックできていないので、妄想ということで聞き流してくださいね。
cero「Obscure Ride」インタビュー (1/4) - 音楽ナタリー Power Push
VIDEOTAPEMUSICが語る「過去を知ると、未来も想像できる」
○Negicco 「ねぇバーディア」
2015年8月16日の日比谷野外音楽堂での公演を控えての新曲MV。
Negicco、野音を"緑色の光の海"で包み込む「来年は武道館に!」
「Negiccoの三人がそれぞれ別に新潟を出発して、日比谷野外音楽堂で合流」という流れがこの公演に向けての煽りVTRになっているという機能もあって素晴らしい演出だなと思いました。
なおちゃんは車、ぽんちゃは新幹線、かえぽは飛行機と別の交通手段で新潟~東京間を移動しているのですが、この距離の感じさせ方が面白いなと。
「新潟県公式観光情報サイト にいがた観光ナビ」の情報によると、新潟から東京まで車は約3時間30分、新幹線は約2時間、飛行機は約1時間かかるとのこと。
これを頭に入れながら見てみると、1番が終わった間奏で新潟を車で出発するなおちゃんは時間がかかるせいかSA以外どこかに寄っている様子はないし、反対に飛行機移動で所要時間の短いかえぽは新潟薬科大学(かえぽが特定研究員に任命された大学)を訪問して2番が始まってもまだ滞在できる余裕があります。他の2人よりも早く1番のうちに新幹線で出発したぽんちゃは、2番が始まるときには東京に到着していて神保町やら銀座やら寄り道しています。
ざっとまとめるとこんな感じ。
メンバー | 移動手段 | 所要時間 | 出発(新潟) | 到着(東京) | 行動 |
---|---|---|---|---|---|
Nao☆ | 車 | 約3時間30分 | 間奏(1番~2番) | 間奏(2番~3番) | 新潟出発後はSA以外に寄り道なし |
Megu | 新幹線 | 約2時間 | 1番サビ | 2番Aメロ | 東京で寄り道しまくり |
Kaede | 飛行機 | 約1時間 | 2番サビ | 2番サビ | 新潟出発前に新潟薬科大を訪問 |
これが意図した演出なのか、3人の撮れ高の配分の結果このようになっているのかはわかりませんが、この東京までの「距離(=速さ×時間)」の表現によって「新潟」を、そしてこの距離を超えて「あなたに逢いに行きます」ということを感じさせているのかなと深読みしたりしてみました。
Negicco、レキシの池田貴史プロデュース曲「ねぇバーディア」を含むシングルをハイレゾ配信&インタヴュー
「ドラマ」部門
○Alabama Shakes 「Sound & Color」
MVを初めて見た時にガッツリと心をつかまれてしまった作品。
最近の映画でも『ゼロ・グラビティ』、『インターステラー』、『オデッセイ』といった宇宙を舞台にしたSF作品の良作が多くあったけど、このMVではそういった宇宙SFのエッセンスを3分の中に閉じ込めているといった感じ。
出てくる要素に複数の効果を持たせていたり、それらを出すタイミングの巧妙さも素晴らしかったです。
例えば、「宇宙を漂って長い時間が経過している」ことは以下のシーンで暗に示されています。
- 主人公が目覚めた直後に立つことができない
- 地球での記憶が断片的にしか思い出せない
- 水や食料が劣化している
- 宇宙船からの呼びかけに応答がない
はっきりと時間の経過が分かるのは、主人公がログを見た時ですが、この見せ方も巧みです。
主人公がこれを見た瞬間は「地球まで500年かかるうち、現時点でどの程度まで経過しているのか」は分からないので、絶望の淵に叩き落されます。しかし、窓の外に浮かぶ地球を見ることで「現在は500年かかった漂流の終わり」なのだと気付きます。
ただ、これはより正確に言えば主人公の視点ではなくて、このMVを見ている人の視点なんですよね。
このMV中では「転んだ主人公が窓の外を眺めた時」と「ログを確認して絶望し窓の外を眺めた時」の2度だけ地球が出てきます。その2度の地球の大きさの違いによって宇宙船が地球に近づいていることは分かります。
しかし、主人公が1度目に地球を眺めた直後のシーンでは、それが何かを理解できていないのではないか。直後に続くシーンでは、おそらく主人公が地球で共に過ごしたであろう家族の記憶が映るものの、「断片的」「瞬間的」にチラついているという表現が使われていることから記憶も長い時間で劣化してしまい、主人公はこちらも理解できていないのではないか。
主人公が無事に地球に戻れたとして、地球が他の生物に支配されずに500年前と変わらないような文明を維持しているとして、彼には戻るべき故郷も家族も存在していない。
輝く地球が見えたラストシーンを、果たして希望と捉えるべきか、それとも絶望と捉えるべきか―。
もちろんこれらは私個人の解釈なので、異なる解釈をする人もいるだろうしそれはそれで正しいと思います。
たった3分の映像の中で、これだけ解釈可能なストーリーを圧縮していることに感動した次第です。
○在日ファンク 「ぜいたく」
先の「Sound & Color」からは一転して、勢いで押し切っている作品。
監督がスタジオ石(stillichimiyaの映像班)ということで、昔のTVドラマのようなスタッフロールの形式や画面を止める見せ方だったり、勢いを補強する雰囲気があるのはさすが。
ハマケンのダンスも楽しいね。
在日ファンク、橋の下で"ぜいたく"な生活
○Courtney Barnett 「Pedestrian At Best」
英語は得意ではないので実際のところどのような内容が歌われているのか分かりませんが、それでもMVから寓話的な内容は読み取ることができる作品。
一度は名声や富を得ることはできても、そのうち雇い主には搾取され客にもナメられる。それでも踊り続けなければならない姿がまさしく「ピエロ」。新たに名声を得たあのピエロはかつての自分の姿かもしれない。盛者必衰、因果応報といったところでしょうか。
以下のサイトに歌詞の邦訳やこの曲の背景などがあって、とても分かりやすいです。
Courtney Barnett - Pedestrian At Best
「ダンス」部門
○tofubeats 「Positive feat. Dream Ami」
ダンスする足元だけが映るという、映画『フットルース』のオープニングのようなMV。
2015年のtofubeatsのMVには性癖全開の「STAKEHOLDER」やヴォーカルの玉城ティナがかわいすぎる「すてきなメゾン feat. 玉城ティナ」といった作品がありましたが、シンプルで印象に残るこのMVを選びました。
振付は福島彩子さん。経歴を見る限りでは舞台やCMの振付を中心に活動されているようですが、MVでは東京事変「あたらしい文明開化」(ミニスカート姿の椎名林檎がハイヒールでソバットをかますという一部の人間にはたまらない作品)の振付などをやっているとのこと。
「僕、コンペとか苦手なんです」 スケブリ・杉山峻輔の戦わない生き方
『クリエイターのヒミツ基地』Volume28 杉山峻輔(グラフィックデザイナー、VJ)
○ふぇのたす 「今夜がおわらない」
ダンス自体は拍に合わせての動作なのでそれほど複雑には見えないですが、だからこそ振りのかわいさが強調されていると思います。メンバーが3人とも割とおっとりした感じの見た目なので、ダンスとの相性がとても良いなと感じました。
ド素人の視点なので明らかに間違っていたり、実は深い所で難しいことをやっている可能性はありますが。
このMVはACC「4月のマーチ」とほぼ同時期に公開されたのですが、どちらのMVも振付を担当したのがホナガヨウコさんでした。同じタイミングで魅かれたMVに共通のスタッフが入っていたことに感動しました。
私自身はふぇのたすをこのMVで知ったようなもので、「これから応援していこう」と思っていました。
しかし、5月にパーカッションの澤“sweets”ミキヒコさんが急逝、バンドも解散といった結果になってしまいました。
仕方のないことではありますが、非常に残念でした。
ふぇのたすの澤"sweets"ミキヒコが急逝
「みんな大好き! ありがたす!」ふぇのたす、名曲だらけの解散ライブ
○星野源 「SUN」
疑似ワンカットのMVの中で女性ダンサーはキレキレに踊って源君は通常の動作をするという対比かと思いきや、終盤にはガッツリ踊っていました。この辺りもマイケル・ジャクソンオマージュなのかなと思ったり。
星野源と宇多丸『YELLOW DANCER』のスケべな魅力を語る
スーパースケベタイム師匠(星野源さん)が TBSラジオ『タマフル』に出演。宇多丸さんと最新アルバム『YELLOW DANCER』のスケべな魅力について語り合っていました。
監督は関和亮さん、振付はMIKIKO先生というPerfumeのMVを多数手がける最強タッグな上に、ダンサーはMIKIKO先生主催の「ELEVVEN PLAY」のメンバーですよ。
そりゃ楽しいMVなわけですよ。
「それならPerfumeのMV選べよ!」と思われるかと思います。確かに「Pick Me Up」のダンスはカッコ良かったし大好きですよ。
ただ、Perfumeのダンスが凄いなんてもう周知の事実だし、今さらここで敢えて取り上げる必要も無いじゃないですか。だから「殿堂入り」的な扱いをしたいんです。
「イメージ」部門
○藤井隆 「You Owe Me」
藤井隆本人がMVの監督も担当している作品。
本人の姿は登場させず、ひたすら色紙が揃えられたりめくられたり破かれたりといったイメージの反復で構成されているMVでした。
この曲を収録したアルバム『COFEE BAR COWBOY』が、以前のようなポップス志向のスタンスではないことを示しているのかなとも思いました。
○David Bowie 「★」
歌唱シーンやダンスもあるし、このMVについての英語版Wikipediaの記事を見る限り解釈の余地を残した形である程度のストーリーも用意はされているようです。
でも、とにかく不気味な雰囲気のイメージが連続されるという点からこの部門で選ぶことにしました。
この曲が収録されたアルバムのリリースから2日後にデヴィッド・ボウイが癌で死去したこともあり、アルバムに死のイメージを連想させるものが多く含まれていると解釈する向きも多いようです。
当人がいない以上は制作意図の確認はしようがなく、個々人の解釈しか残りません。そのため、作品の解釈についてあまり踏み込みたくはないですが、闘病生活をしていたという事実がありその中で制作を行っていたという事実から考える以上は、やはり(当人の意識の有無は別として)作品に死のイメージが滲み出ることもあるだろうし、このMVに感じる不気味さの原因もそこにあったりするかもしれない。
Behind "Blackstar": An Interview with Johan Renck, the Director of David Bowie's Ten-Minute Short Film | NOISEY
Johan Renck, director of David Bowie's 'Blackstar' video, calls collaborative process 'a dream' on CBC Music
「アニメ・グラフィクス」部門
○Grades 「King」
女の子のダンスだけでなく表情も不敵な感じでかわいいです。
その女の子とからむのが3Dではなく2Dのアニメというのが面白かったです。
小学4年生の天才ダンサー高巣来華がアニメの世界で炸裂!ロンドン在住、木村太一監督によるGRADESのMV「KING」が登場!
○Young Juvenile Youth 「Animation」
歌うミュージシャンの前を左右に動いて撮るという単調な反復の中で、顔のパーツが増減したり、別のものになったりという差異が生まれていくという作品。
マックス・ヘッドルーム(Eminem 「Rap God」でパロディやってたやつ)みたいなバグっぽい動きも面白かったです。未だに「アナログならざる動き」として通用するのね。
○おやすみホログラム & Have a Nice Day! 「エメラルド」
MV中に使用されているライブの映像はかなり盛り上がっているし、実際にライブでは激しい感じで披露されているのだろうけど、MVで流れる音源は静かで無機質。
画面を覆うノイズのような効果が熱いライブ映像を静かな音源に落とし込むためのフィルタになっているのかなと思いました。
○Iron Maiden 「Speed Of Light」
アイアン・メイデンのマスコットキャラクター(で正しいのか?w)、エディがゲームの世界に入り込むというMV。
ステージが上がるにつれてグラフィックも良くなっていきますが、これがゲームの進化に沿ってるの良かったです。
「エフェクト」部門
○DJみそしるとMCごはん 「THIS IS ISETAN UNDERGROUND」
CGか何かでグラフィック部分を描いているのかと思いきや、「Pixelstick」というガジェットを使ってコマ撮りしたそうです。
撮影の詳しい内容などは以下のリンクが詳しいです。
真夜中の伊勢丹でPixelstickを使ってコマ撮り!? 「DJみそしるとMCごはん」の新曲MV撮影に潜入
確かによく見てみるとガジェットを持っていたスタッフのものであろう足の影がぼんやりと映ったりしていますね。最新の機器を使っているけれど、人の手が入ることで映像にちょっとした揺らぎができたりしてそこがかわいく見えます。
先のリンク先のインタビューでも、DJみそしるとMCごはん(以降、おみそはん)が次のように答えていました。
デジタルの最先端の機械ですけど、それをコマ撮りというアナログな手法で撮影していくというのがおもしろいなと思います。伊勢丹にあるものも、今一番新しい最先端のものが置いてあるけれど、手間ひまかけて人間が作っている感じがするものが多いと思います。そのあたりもリンクするところがあると感じています。
おみそはんの曲の基本的なスタイルは、森野熊八のごとく「調理の手順をラップ/歌に乗せる」というものです。もしそのタイプの曲をMVにしようとすると、おみそはんが出演しているEテレの『ごちそんぐDJ』のように、どうしても「調理手順の紹介」という部分に引っ張られてしまうと思うんですよ。
前回のMV「ジャスタジスイ」がその名の通り「自炊」がテーマだったように、今回のテーマは「伊勢丹の地下1階(つまりデパ地下の食料品売り場)」で、直接に調理とは関係がありません。だから、こういったタイプの曲の方がMVを自由に作りやすいのではないかと思います。
この曲の中の好きなヴァースの一つにこんなものがあります。
「私、マネキンじゃないから胃ブクロの中もオシャレしたいわ」
リリックの内容は「伊勢丹で買い物してたらお腹が空いたので地下1階へ向かう買い物客」という現実的な視点です。でも今回のMVの中でのおみそはんは「伊勢丹の閉店後に動き出したマネキン」でした。その設定からもう一度リリックを眺めてみると、同じリリックのはずがファンタジックな世界に見えてくるという不思議。
曲をもとに作られているはずのMVが、反対に曲に別の解釈を与えているというのも、このMVの楽しさの一つではないかと思います。
○でんぱ組.inc 「あした地球がこなごなになっても」
でんぱ組.incというと出自が秋葉原にあるわけですが、秋葉原というと電気街/オタク/ビジネス街といった異なるイメージが混在した雑多感の強い街というイメージがあるかと思います。
でんぱ組.incのMVもこのイメージからか雑多感が強い作品が多いですが、大抵の作品は「ただ画面がゴチャゴチャしてる」という印象で終わってしまうものが個人的には多いような気がします。
ただし、その中で志賀匠さんが監督している作品は「雑多感」に加えて必ずギミックを盛り込んでるという点が他の作品から頭一つ抜きんでて面白い所だと思います。
例えば、「でんでんぱっしょん」や「バリ3共和国」では実写の中で手前に奥にと色んなレイヤーで2次元のアニメーションが挿入されたり、「サクラあっぱれーしょん」では前半をワンカットで撮っていたり(撮影自体は全編ワンカットでやっているようだけど、MV上は途中で別のカットが挿入されるのでワンカットには見えない)します。
歌詞の中には「地球」や「宇宙」というキーワードが出てくるけれどその内容は至ってミニマムな世界の話(いかにも浅野いにおという感じの作詞)ということで、小さな星の上を走っているような映像が撮影されたのではないかと思います。
このMVでは6台のカメラを使った360°撮影(最近はGoProあるから便利ですね)を行っているとナタリーの記事にはありましたが、それにプラスして魚眼レンズを使っていると思われます(普通のレンズでは地面が球体のようにはならないと思うのですが、確証がないのでぼやかしておきます…)。
でんぱ組.inc、全編イタリア撮影の浅野いにおタッグ曲MV
ヨナス・ギンターが自転車で小さな地球を走る!GoProカメラ6台による360度撮影 | VICE JAPAN
360°撮影そのものはこの年の作品では珍しくなかった(例えば、安藤裕子 「360°サラウンド」、FOALS 「Mountain At My Gates」、ACC 「Lullaby for TOKYO CITY」など)と思いますが、そこに魚眼レンズを加えて映像を加工して見せるという点が他のものよりも面白かったです。
○Yun*chi 「Jelly*」
CGなどの映像加工は無いものの、不思議な映像。
仕掛けそのものはとても単純(そうに見える)だけど、海を漂うクラゲのような浮遊感が出ています。
おそらくはミュージシャンの前にスクリーンを置いて、映像は後ろから投影している(ミュージシャンの前に常に影が映るので、映像を前からは投影はしていないはず)と思います。スクリーン前の光源を弱めれば陰で姿が隠れるし、強めれば顔や姿が映るのでは無いかと。
MV撮影時の様子が分かるレポートやインタビューの記事が見当たらなかったので推測でしか無いですけど。
○The Chemical Brothers 「Go」
このMVの中でやっていることと言えば、音楽のリズムに合わせて7人の女性が歩いたり、2本の棒を動かしたりしているだけ。物理的にあり得ない動き(棒が人体を通り抜けているように見える)も、編集で繋げているだけ。
やってること自体は単純なんだけど、恐ろしく面白いところがいかにもミシェル・ゴンドリー監督らしいところ。この監督はやっぱりローテクでこそ映える人だなぁと。
目の前の映像と今聴いている音楽が同期するという、MVの根源的な楽しさを感じさせてくれる作品だと思います。
メイキングの映像もあるようです。
○Perfume 「Relax In Thje City」
このMVを最初に見た時、恥ずかしながら、「あ、今回は踊らないんだな」くらいにしか思っていなかったんです。
しかし、監督は関和亮さん。何も仕掛けのないユルいMVを作ってるわけがないじゃないですか。
今回のMVの撮影の舞台裏が一番よく分かる資料がPerfumeのオフィシャルファンクラブ「P.T.A.」が出している会報誌の第3号なのですが、「ファンクラブ限定グッズ」という資料の性質上、ここに引用することができないのでネットで閲覧可能な資料をもとに話を進めますね。
「リラックス」を感じさせるようなゆったりした浮遊感を演出するために使われている手法が大きく2つあります。「ハイスピード撮影」と「クレーン」です。
まず「ハイスピード撮影」ですが、こう聞くと「速い映像のことか?」と思う人もいるかと思いますがそうではなくて、通常よりも多くのコマ数を撮影することです。こうすることで、スローにした時にカクカクしない滑らかな映像になります。
今回のMVでは撮影時には1.5倍の速さで撮影し、それをスローにすることで実際の曲の速さに合わせています。よく見ると、口の動きは聴こえている曲にあっているはずなのに、瞬きやスカートのなびき方、歩き方などはゆっくりした動きになっています。
あ~ちゃん「しかもビデオの方では、これをまた1.5倍速でしたっけ?倍速にして撮ったんですよね。」
かしゆか「早回しでね。映像として使われる時は本当の曲の速さに落とすから、口は曲の速さで、映像がスローに見えるっていう撮影する方法なんだけど。」
あ~ちゃん「空をバックに気持ちいい風の中で撮ってはいたんですけど、曲はすごい速さでね。難しくてね。あれはどうだったんですか、ゆかちゃん?」
かしゆか「あれはもう、ごまかしました(笑)」
あ~ちゃん「ウソ?そうなの?(笑)」
かしゆか「口元はフワフワ~っとして。雰囲気ものですよね(笑)」
のっち「その良さはちゃんと出てると思います。」
あ~ちゃん「いつも見せないような表情とか収められていると思います。」
MVを見ている分には通常の速さで曲が流れているわけですが、撮影現場では1.5倍の速さで歌わなくてはいけないわけで、見えないところで大変なことをやっているのです。
次に「クレーン」を使った撮影。関監督が手掛けたOK Go 「I Won't Let You Down」での前例があるので、初めはドローンを使って撮影をしているのだと思っていました。
インタビューやレポートを追っていくと、実はドローンではなくてクレーンを使って撮影しているとのこと。確かに、サビ部分ではメンバーが地面から少し高い所を横移動しているし、2番サビでは手前に歩いてきたかしゆかがそのまま空中に上っています。
OK GoのMVを撮影した時の関監督の話では、屋外でのドローン撮影は天候や風向きの影響を大きく受けるので大変なのだそう。特に今回は海沿いでの撮影なので、ドローンではカメラのコントロールが難しすぎると判断したのかもしれません。
そういえば、先に挙げた星野源「SUN」の終盤でもクレーンを使っていましたね(こちらは屋内だけれど)。
これらの2点ほど印象に影響のあるところではないかもしれないけれど、もう少し細かい所で言うと、映像のつなぎ方もトリッキーなことをしている部分があります。
例えば、「Relax Room」に向かうのっちは画面左にいたのに、あ~ちゃんが映る直前に画面右にグッと移動してきたように繋げられています。
2番サビでは同じ位置にいる人物を重ねるフェードイン/フェードアウトだけでなく、一方が画面隅に退くような映像をフェードアウトさせたり(かしゆかからのっちに切り替わるときのように)しています。
これらのつなぎ方が「浮遊感」の演出になっているかどうかは判断が難しい所ではあります。ただ、Perfumeのイメージを見せやすいダンスシーンが無く、「未来のミュージアム」のようなドラマでもない今回のMVでは、単なるイメージ映像にならないための「視覚的な引っかかり」を生むような役目を果たしているのではないかと思います。
新曲『Relax In The City』を研究せよ! | 未来の鍵を握る学校 SCHOOL OF LOCK! Perfume LOCKS!
Perfume「Relax In The City / Pick Me Up」インタビュー (1/3) - 音楽ナタリー Power Push
テクノロジーやメディアの発達で映像表現も変わっていく-関和亮インタビュー(2) | デザイン情報サイト[JDN]
ここまでMVの話をしてきましたが、「MV」という枠を取っ払った場合には、2015年のPerfume関連で最高の映像はチョコラBBのCMだったと思うということをここに書き残しておきたいと思います。
「イルネス」部門
○Skylar Spence 「Affairs」
Tuxedo 「R U Ready」やlyrical school 「ワンダーグラウンド」のようなVHSの画質に加工したり、ある特定の時代のフッテージを使って構成するヴェイパーウェイヴ的な表現そのものは流行りでもあるし、作品としてもそれほど珍しくはないかと思います。
ただ、この作品で使われているフッテージというのが、1970~80年代の日本のCMの映像です。これは日本人にはより強烈に「どうかしてる」感が伝わってくるのではないかと思います。
世代が違うので見てすぐにわかるようなものは一つもありませんでしたが、出ている人や商品が分かるものを手掛かりに調べてみると、以下のCMが使われていることが分かりました。
- NEC ハイクオリティテレホン (1986)(紺野美沙子)(別バージョン)
- コカ・コーラ 「YES COKE YES篇」 (1983)(早見優)
- ビクトリーオーシャン ウイスキー (1982)(浅野ゆう子 ※白ドレスでピストルを撃つ)
- ビクトリーオーシャン ウイスキー (1982)(浅野ゆう子 ※茶色ソファ、映像が左右反転)
- 花王 ブローネ (1981)(多岐川裕美)
- 丸善ガソリン 「丸善石油 Oh!モーレツ」 (1969)(小川ローザ)
- PARCO (1988)(浅野温子)
- サントリー ブランデー V.O (1985)(古手川祐子)
- ビクトリーオーシャン ウイスキー (1982)(浅野ゆう子 ※顔アップ、落涙)
- 三笠製薬 ゼノールチック (1982)(浅野ゆう子)
- JCB (1988)(松本孝美)
- 富士重工業 スバルレオーネ (1979)(岩崎宏美)
- コカ・コーラ 「I feel Coke篇」 (1987~89)
- サンヨー おしゃれなテレコ ダブルU4 (1985)
- 国鉄 「ディスカバー・ジャパン - 北海道・野付半島篇」 (1971)(北山修)
- サンシルク(浅野温子)
- サンヨー食品 サッポロ一番カップスター (1975)(麻丘めぐみ)
- 日立製作所 マスタックス (1986)(菊池桃子)
- 資生堂 ティアラ (1982)(高樹澪)
- サントリー 赤玉パンチ (1982)(郷ひろみ)
山崎まどかさんによるMVコラムでも採りあげられていました。
コラム | 山崎まどか | アイ・キャン・シー・ザ・ミュージック - Vol.16 | Record CD Online Shop JET SET / レコード・CD通販ショップ ジェットセット
○サカナクション 「新宝島」
今さら言うことでもないですが、TV番組「ドリフ大爆笑」のオープニング・エンディングにオマージュを捧げた作品。途中で挿入されるその日のコントのハイライト(映像が止まるところ)まで再現したこだわりようにオイニーが充満してます。
昨年はstillichimiya 「ズンドコ節」でもドリフオマージュをやっていたので、ある世代には非常に刺さる映像なんでしょうな(このMVについて書かれたブログをいくつか読んでいたら、「ドリフのオマージュらしいけど見たことない」といった感想がいくつかあって時の流れは止まらないのだなと思いました)。
ラストは唐突なクラフトワークオマージュ。なぜ?w
サカナクション、昭和風レトロ&ド派手な「新宝島」MV完成
映画「バクマン。」の主題歌として書き下ろされたサカナクションの新曲「新宝島」のミュージックビデオが完成。
○スチャダラパー 「中庸平凡パンチ」
テレビ東京で2015年1月~3月に放送された、清野とおるの漫画『東京都北区赤羽』シリーズをベースにしたTVドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』(俳優業に行き詰った山田孝之が赤羽に移住して自分を見つめ直すというモキュメンタリー)のオープニング曲。
このドラマの監督のうちの一人、松江哲明さんがこのMVの監督も担当していました。
見てもらえればわかると思いますが、シンプルなのにものすごい濃度。
赤羽に住まう強烈なキャラクターの人々を、映像編集ソフトにデフォルトで入っているような加工であっさり味付けした、この赤羽ヴァイブスの「産地直送」感。
トラックのイーストコースト感とも相まって、東京北東部の都市・赤羽とアメリカ北東部の都市・ニューヨークがオーバーラップしてもはやどちらも同じ場所なんじゃないかという気すらしてきますよ…(病気)。
山田孝之の東京都北区赤羽:テレビ東京
もう後半戦に突入したけど、2016年も面白いMVが見られますように。
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