2013年8月12日月曜日

バーニー みんなが愛した殺人者

1回観てきました。


『バーニー みんなが愛した殺人者』予告編

映画.comの作品紹介ページからあらすじを引用。
テキサス州の田舎町で葬儀屋を営むバーニーは、誰にでも優しく慈愛に満ちた人柄で町民から慕われていた。一方、金持ちの老未亡人マージョリーは偏屈な嫌われ者だったが、心優しいバーニーはひとり暮らしのマージョリーを気遣い、たびたび家を訪問して相手をするようになる。やがて心を許したマージョリーはバーニーに銀行口座まで預けるほどになるが、ある日、バーニーはマージョリーを殺してしまう。バーニーはその後もマージョリーが生きているかのように演出を続けるが……。
リチャード・リンクレイター監督の新作ということで観てきました。
監督の作品は『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』、『ビフォア・サンセット』、『スクール・オブ・ロック』しか観ていませんが、『ビフォア~』シリーズが好きなんですよ(来年公開予定の続編『ビフォア・ミッドナイト』も凄い楽しみ)。
このシリーズでは、恋人どうし(より正確に言うと、「恋人になるまで」の二人と、「その後恋人になることは無かった」二人)の他愛の無い、だからこそ心をくすぐる会話を長回しで撮り続けるという方法を採っているのです。

"Before Sunrise" Trailer
長回しなので1シーンのセリフ量も多いのだけれど、
すべて台本に書かれているものらしい。すごいな!

今回も少し変わった方法を採り入れています。それは物語の大部分が第三者、具体的には事件の発生した町の人々へのインタビューで構成されているということ。
容疑者のバーニー(ジャック・ブラック)の良い評判についても、被害者のマージョリー(シャーリー・マクレーン)の悪い評判についても、ほとんどがインタビューを通じて語られます。
もちろんバーニーやマージョリーが出てくるシーンはあるけれど、あくまでも「こういうことがあった」という間接的な形で語られます。

主人公のバーニー
優秀な葬儀屋で、町の人から愛されています。

殺人事件の被害者となるマージョリー
死んでもなお「ケチな金貸し」と悪く言われ続けます。

町の人々へのインタビュー
みんな一様にバーニーを愛しているのです。

町で唯一バーニーに対して懐疑的なダニー検事(マシュー・マコノヒー)
ここ数ヶ月はマコちゃんをよく見ますねぇ。

他の人の感想のを読んだのだけれど、その人は『スクール・オブ・ロック』のファンだったらしく、「ジャック・ブラックが『スクール~』の時のようにイカれてないから笑えない」みたいなことを言っていたのですよ。

確かにこの作品では、ジャック・ブラック演じるバーニーは「いかにもコメディ的な常識から逸脱した人物」ではないです。
そしてこの作品は「笑えない」です。

ただし、「笑えない」とは「面白くない」という意味ではありません。
むしろこの作品はしっかりと笑いを引き起こします。引きつった笑いを。

話は変わるけれど、この作品を観たときに、ちょうど山口連続殺人放火事件が話題になってたんですよ。狭い集落で半分くらいの世帯が犠牲になったやつ。
初めのうちは「隣がこういう人だったら怖いなー」くらいに思ってたんだけど、日が経つにつれてニュースでも「重要参考人の男が警察に相談していた」とか「過去に重要参考人の男が被害者から刺されていた」など報道されるように。
※しかもインタビューを受けてる集落の住民は「鋭利なものがちょっと当たっただけじゃないですかぁ」みたいに取り立てて重要ではないことのように答えてたりする…。

容疑者が逮捕されてから「これでやっと安心して眠れる」と答えている人もいました。字面では言い分が分からなくもないんだけど、それまでの報道を見てるとどうにも何か気持ち悪さが残るという感じがしました。

で、ここで感じた気持ち悪さがこの作品の「笑えない」要素と似ていると思いました。

要は、どちらも狭い人間関係をうまく機能させるために不満の吐きどころとなる人をたてていて、しかもみんながその構造を信用しきっているんですよ。
部外者からしたら「バーニーは実は悪人なんじゃないか」とか疑いが生まれるわけですが、この町の人にはそもそもその概念すらない。

町の人はバーニー(と関係を支える構造)を信じて
いるので、こんなことを言うことすらないのです。

こういう関係は「田舎だから」ということには全く関係ありません。
都会であろうと「同じ地区に住んでる」とか「同じマンションに住んでる」とか「同じクラスにいる」とか、同一の所属だと認識できる集団であればどこでも起こりうることだと思うんですよ。

この作品がインタビューなど間接的な語りを徹底しているのは、観客を町の外部から見る視点におくことで、この気持ち悪さを感じさせるためなのだろうと。

ダニー検事の発案で、別の地区で裁判を受けるバーニー
町の人がこの裁判について「あんな奴ら(=別の地区の人々)に正しい判断なんか
できるわけがない」と言っていたのが、いかにも狭い集団の考え方だと感じたり。

他人事ならいくらでも笑い飛ばせるけれど、あまりにも身近で、誰にでも身に覚えがあることだからこそ「笑えない」作品になっている。
日本ではあまり評判は良くないようだけど、こういう風刺表現こそ「ブラック・コメディ」だろうと思いました。


最後に何となくこのMVを貼って終わりにしたいと思います。

Fatboy Slim "Don't Let the Man Get You Down"

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